(借金返済 債務整理)消滅時効の援用権


主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請 求

別紙請求の趣旨1項記載のとおり

第2 事案の概要

1 請求の原因
別紙請求の原因記載のとおり
2 抗 弁
本件借金返済の債権は時効により消滅したので援用する。
3 再抗弁
被告は消滅時効完成後である平成14年5月23日に80万円を原告に支払ったので,消滅時効の援用権を喪失した。
4 再抗弁に対する被告の主張
原告の担当者が被告の母や姉妹に対し執拗に電話で支払いを求めたので,妹がその子供たちの小さいときから蓄えた預金を下ろして支払ったもので,被告はそれを頼まなかったし何ら関知していない。
5 争 点
被告が消滅時効の援用権を喪失したかどうかである。

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第3 当裁判所の判断

1 甲2号証,乙1号証,被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告は,平成13年8月ころ刑務所を出所し,川崎市a区bの住所に戻ったが,妻と離婚して被告の実家である肩書住所に転居した。
その肩書住所では,被告の母Aが「B」という屋号で沖縄料理店を経営し,被告の姉Cと妹Dが昼間だけ手伝いに来ていた。原告の担当者Eは,平成14年5月14日午後4時ころ,被告に電話をかけ「元利合計で300万円近くになっているので,30万円を都合してほしい,今日午後4時30分に回答してもらいたい。」と言った。
被告は元配管工であったが,その当時仕事がなく30万円もの金を都合する当てが全くなかったところ,配管工をしていた当時の上司であったFを思い出し,同人に電話をかけたが不在であった。そこで,被告は同日午後4時40分にEに電話をかけ「金の都合がつかない。」と言ったところ,Eは上司に相談した後「今日30万円を都合できなければ,明日からは50万円になる。
もし支払わなければ,裁判にかけても300万円はきっちり取ってやる。」と言ったので,被告はとても話にならないと思って,それ以後は一度も電話口に出なかった。
(2) Eは,引き続き何回となく被告に電話をかけたが,被告が電話口に出なかったので,やむを得ず電話口に出た被告の母や姉妹に対し,繰り返し執拗に被告の所在を聞いたり被告の代わりに支払ってほしいと言った。
その結果,Eの執拗な電話のため沖縄料理店の仕事にも支障が生じたので,平成14年5月23日午前11時20分ころ,妹はEに電話をかけ「いくら支払ったら,残額をまけてくれるのか。
と聞いたところ,Eは上司に相談した後最終的に105万円でよいと答えた。そこで,妹は,三人の子供たちが小さいときから蓄えた預金を下ろすなどして80万円を集め,これを原告の預金口座に振り込んだが,残金25万円は支払わなかった。
その後,被告は,妹が80万円を原告に支払ったことを聞いて,「頼みもしないのに,それまでしてなぜ80万円も支払ったのか。」と言ったので,それ以来妹とは口も聞いていない。
2 債務者が自己の負担する債務について消滅時効が完成した後に,債権者に対する債務の承認をした場合,時効完成の事実を知らなかったとしても,以後,消滅時効の援用をすることが許されないとされる理由は,時効完成後,債務者が債務の承認(一部弁済)をすることは,時効による債務消滅の主張とは相容れない行為であり,相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから,その後においては債務者に時効の援用を認めないとすることが,信義則に照らし相当であるからである。
そこで,前記認定事実によって判断すると,平成14年5月14日時点での被告の債務は元利合計で230万円弱であったのに,Eは,元利合計で70万円も多い300万円近くになっていると被告に言い,時効完成後であることを承知しながら一部弁済を執拗に迫っている。
そして,Eは,連帯保証人でもなく原告に対し何らの法的義務を負っていない被告の母や姉妹に対し,執拗な電話をかけたことにより沖縄料理店の仕事にも支障を生じさせ,それに耐えきれなくなった妹に対し,三人の子供たちが小さいときから蓄えた預金を下ろすなどして80万円を集めさせるほどの窮地に立たせている。
これらの行為は,金融庁事務ガイドライン3ー2ー2(2)Aの「反復継続して,電話で連絡し」に該当し,同(3)Bの「法律上支払義務のない者に対し,支払請求を
したり,必要以上に取立への協力を要求すること」に該当する。
したがって,このような場合にまで,債権者である原告の信頼を保護するために,債務者である被告がその債務について消滅時効の援用権を喪失すると解すべき理由はない。
よって,本件債権は時効により消滅しているので,原告の請求は理由がない。

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